顎関節症専門医のつぶやき(グリデン日記)

歯科医院(通称グリデン)からの顎関節症についての情報です。

長生きは「唾液」で決まる!

2014年7月に「長生きは唾液で決まる!」という本が講談社新書から出版されました。
著者は植田耕一郎先生。日本大学歯学部摂食機能療法学講座の教授です。摂食療法機能療法?聞きなれない言葉と思います。今日本は世界的にまれにみる高齢化社会と言われています。健康寿命と言う言葉を聞いたことがありますか?健康寿命とは、健康上で問題がない状態で日常生活を送れる期間の事です。平均寿命から健康寿命を引くと、男性は約9年、女性は約12年。寝たきりにならず自立して生きることができる期間は短くなってしまいます。いかに健康で生きていくことが重要です。
 そうでなくとも、たとえば40代、50代でも脳卒中になって口やのどがマヒしてしまうと食べることもままなりません。
 植田先生は、多くの脳卒中の患者さんに対して口腔リハビリテーションを行ってきた経験から、口の中が唾液で潤っている人は長生きのような気がする、また口の中が乾燥して粘膜がオブラート状に張り付いた状態になると死期が近い感じがすると書かれています。
 また、特に固いものはおろか、口からものを食べられず、歯磨きも到底できないような高齢者を、何千人という規模で診察し、脳卒中を発症し、虫歯だらけ、歯が溶けてしまったかのような患者さんがいる反面、数か月の間、ブラッシングをまったくしていないというのに虫歯が出来ていない患者さんも多くいることから、本質は「固いものを食べること」「毎日歯磨きをしないといけない」ことよりも唾液が足りないこと、唾液の自浄作用が働かないことの重要性であると述べています。
 確かに、虫歯のできる要因として、虫歯作る細菌、生活環境・食生活とともに唾液の自浄作用が挙げられこれらが働き虫歯が作られると言われています。唾液の自浄作用を高めれば他の要因の影響を少なくできるという事です。
 植田先生は、脳卒中の患者さんに口やのどの機能を回復するリハビリテーションを行う際に勧めているトレーニング、口ストレッチを健康な時から行えば、唾液がちゃんと出て健康が維持できると言っています。やり方は驚くほど簡単ですが、興味がある方は是非、本を読んで実践してみてください。
 植田先生は、実は私(島田)の、大学時代の硬式野球部の先輩です。一緒に厳しい練習をやってきました。今でも植田先生のスイングの凄さを覚えています。また大学卒業後も局部床義歯という、部分入れ歯の教室の大学院の先輩でもあります。まだ私が日大の大学院にいた時のことです。患者さんから「先生、人助けをしてみない?」と言われたことがあります。なんのことかわからずにいると、「家に、寝たきりの義父がいるのだけれど、口の中がぼろぼろで食べられないから入れ歯を作ってほしいんです。」との事でした。当時、臨床も少し出来るようになり、簡単に引き受けてはしまいましたが、お家まで伺い入れ歯を作ることが出来るのだろうか?そう思った時に植田先生のことが頭に浮かびました。入れ違いに大学院を卒業されていた植田先生は、大学の医局に残っておりましたが、寝た期入りの患者さんを訪れ治療されているという事を思い出しました。植田先生にさっそくお聞きしてみると、「結構大変だけど最近一人治療が終わったから一緒にやってもいいよ」と言っていただき。大学から機材を持って患者さんのお家に伺いました。患者さんのお口の中を見てみると、歯はほとんどなく、ある歯もボロボロに欠けていました。これでは入れ歯は入れられない。患者さんのご家族と相談し、一度車で大学病院まで来ていただき、ダメな歯を抜くことになりました。その後数回伺い、お口の型を取り、咬み合わせを取り、仮の入れ歯を試適し、ようやく入れ歯を入れることができました。こう書くとスムーズに進んだように思えますが、実際は、普段の診療室での治療と違い本当に大変で、おそらく私一人ではおそらく満足したものが出来ず、結局は使ってもらえなかったのではないかと思いました。植田先生は、とにかく一つ一つが丁寧で、全部ご自分で入れ歯を作られました。恥ずかしい話ですが、私は結局、植田先生についていっただけであまり役に立たなかったのではないかと思い、実際にやることのむずかしさを実感いたしました。
入れ歯が完成し、患者さんがそれをお口に入れて、食事ができた時、患者さんは目に涙を浮かべて喜ばれ、私たちに握手をされました、その時の感動を今も忘れられません。植田先生は、大学病院から、その後日本で初めてできた墨田区の東京都リハビリテーション病院に勤務され、その業績が認められ、新潟大学歯学部加齢歯科学講座助教授として、医科病院で寝たきりで口から物が食べられなくなった患者さんへのリハビリを数多く行い、それが評価され母校である日大歯学部に新たに新設された摂食機能療法学講座の教授として迎えられたわけです。口から物が食べられなくなると口腔の機能、特に筋肉の機能が低下するサルコペニア(筋減弱症)となり行動範囲が狭くなりひいては寝たきりになってしまうと言われています。また逆に寝たきりの患者さんに、少しずつでも口腔の筋肉のリハビリを行い、柔らかいものでも食べ、飲みこむことができると徐々に体力が回復し、歩けるまでになるような患者さんがいることも報告されています。ただ、歯科医はその権限が制限され、歯科医の判断だけではリハビリができない。もっと言うとご存じの方もいるかと思いますが、入院すると感染などの問題と思いますが、入れ歯は外されてしまうことも大きな問題です。食べる事、飲みこむことができなくなれば後は弱っていくだけです。介護の現場で歯科医が必要とされ活躍しなければいけない、また歯科医が活躍することで、寝たきりの患者さんが減り、健康寿命が延びる可能性がある。医科に歯科の重要性を認めてもらうため植田先生には頑張っていただきたいと思います。
 先月、植田先生から、本の出版記念の講演会と食事会に誘っていただきました。久しぶりに、いろんなお話をさせていただきましたが、先ほど述べました植田先生に診ていただいた患者さんの話になり、実は植田先生も、一つ一つの工程を記録したのは、その患者さんが初めてで、いまでもそれを学生の授業や講演でお話しされるそうで、そう聞き私も、当時を思い浮かべ感無量でありました。今歯科でもその重要性が認められ、植田先生は日本各地で引っ張りだこです。これからの日本はかつてない高齢化社会となります。私も何か考えていくことが必要と感じました。