顎関節症専門医のつぶやき(グリデン日記)

歯科医院(通称グリデン)からの顎関節症についての情報です。

ナイトガード(睡眠時使用するマウスピース)の洗浄・保管方法


 デンタルダイヤモンドという歯科雑誌に、読者からの質問に答えるQ&Aのコーナーがあります。
昨年9月に「ナイトガード(睡眠時使用するマウスピース)の洗浄・保管方法」についての質問への回答を頼まれて書きました。歯科医の読者向けですが、顎関節症や歯ぎしりでマウスピース様の装置をお使いの方は参考にしてください。
内容につきましてご質問などありましたらこちらからお願いいたします。
@質問
「ナイトガードの洗浄・保管方法」
夜間に歯ぎしりのある患者さんへ作成するナイトガードの、適切な洗浄療法および保管方法の指導の仕方をお教えください。 埼玉県・T歯科医院」
@答え:
 夜間の歯ぎしりに対するナイトガード、スポーツに対するマウスガードさらには顎関節症に対するスプリントなど多くの熱可塑性シートが口腔内に用いられます。これらの装置が長く口腔内で機能するためには適切な管理が必要です。たとえば義歯については、デンチャープラークコントロールの重要性が知られています。これはデンチャープラークが義歯性口内炎、根面カリエスあるいは誤嚥性肺炎、心疾患などの全身疾患との関連性が指摘されているからです。ナイトガードは、夜間のみ使われるわけですが、それでも義歯と同様に歯石、着色などの汚れが生じます。また患者さんからは、臭いや味についての訴えを聞くこともあります。以上のことから考えると、ナイトガードを長期に用いる場合には、口腔内および全身への影響を考え、適切な洗浄と保管などの管理を行うことが重要と思われます。
ナイトガードの適切な管理を行うに当たり、まず考えなければいけないのは当たり前の様ですが、患者さん自身の口腔内を清潔に保つと言うことです。口腔内の細菌がコントロールされてなければ、当然装着したナイトガードへの細菌の感染が起こりやすくなるとともに、歯周病やう蝕のリスクが高まります。口腔内の状況に応じた適切な口腔衛生指導と定期的なメインテナンスが必要です。
 次にナイトガード自体の管理についてですが、夜間のはぎしりに対するナイトガードについてお話しするときには、それがハードタイプかソフトタイプかによって状況が少し違ってきます。睡眠時ブラキシズムにより起床時に顎関節痛や開口障害などがある場合には、ソフトタイプですと逆にブラキシズムが強くなり症状が悪化する場合があるのでハードタイプが用いられます。ただ歯の保護だけを考えればソフトタイプの方が装着時の違和感が少ないため、一般的にはソフトタイプの方が用いられることが多いようです。ハードタイプでは主にアクリル板と即時重合レジンが、ソフトタイプでは主にEVA(エチレンビニル四酢酸)が用いられます、洗浄法についてはほぼ同じですが、主には吸水性の差から保管方法が異なります。まず洗浄についてですが、ナイトガード材には、口腔内の細菌が付着し、口腔外に取り出された後も保存方法によっては、細菌は生菌として残存し再び口腔内に侵入する可能性が指摘されています。そこで洗浄が必要になるわけですが、通常は使用後冷水またはぬるま湯にて洗います。この時注意するのは、熱湯で消毒したら合わなくなったと訴える患者さんが少なからず存在することです。熱可塑性材料ですので、表面が軟化し損傷を生じたり、変形を起こす恐れがあるため熱湯を用いない様に指導することが必要です。一般的に洗浄についてはソフトの歯ブラシに歯磨剤をつけて洗浄し、マウスウォッシュですすぐ、あるいは義歯の洗浄剤の併用が推奨されてきました。しかしナイトガードは義歯に比べて清掃困難な形態部分が多く、ブラシの使用で表面の擦過などの細かい損傷が生ずる、あるいはブラキシズムによる表面の損傷などを生じ、そこがまあ細菌の温床になる可能性があることから物理的清掃よりも化学的清掃を積極的に用いる必要性が言われています。そこで最近では、すべての熱可塑性材料に対応可能なマウスガード洗浄スプレー(商品名を出して良ければマウスガード除菌洗浄スプレー:アース製薬)が開発され用いられています。ナイトガードをはずして何も行わなかった場合に比べて、消毒水による洗浄、歯ブラシを用いた機械的洗浄においても細菌数は有意に減少するが、マウスガード洗浄スプレーを用いた場には、付着菌は99%以上除菌できたとの報告もあります1)。
次に保管方法ですが、ハードタイプの場合、吸水性がありますので乾燥により変形する可能性がありますから、非装着時には専用の容器(市販のプラスチック容器でも可)に水を入れ保管します。持ち運ぶときには水の代わりに濡れたティッシュで包むと良いと思います。ソフトタイプの場合は逆に長期間の水中浸漬は材料の劣化を引き起こすため、洗浄後は乾燥が必要です。またその後の保管に関しては密閉性の容器で保管した場合には、最長で14日後でも生菌が検出されたとの報告もあるため、通気性のある容器で保管することが有効です。ちなみにマウスガード洗浄スプレーを用いた場合には、密閉性容器であっても細菌が検出されなかったとされています2)。
以上の様に洗浄については同じですが、保管については材料により使い分けてください。
グリーンデンタルクリニック
島田淳
文献:
1)鈴木浩司ら:マウスガードの除菌・洗浄剤開発に関する研究、スポーツ歯学;13(2),92-98,2010.
2)山崎早加ら:3DSリテーナーの衛生的保管方法についての検討、第22回日本スポーツ歯科医学会学術大会、75,2011.

文中で紹介したマウスガードスプレーはアマゾンで購入可能です。

アース製薬 マウスガード除菌 ・ 洗浄スプレー 100ml

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