顎関節症専門医のつぶやき(グリデン日記)

歯科医院(通称グリデン)からの顎関節症についての情報です。

これで顎関節症がわかる!11

1)咬み合せは顎関節症の原因か?その2

顎関節症や腰痛のような筋骨格系の運動障害の場合、症状がでたきっかけや原因がよくわからない場合が多いです。昨日まで何ともなかったものが急に痛くなる。思い当たることが無いと不安ですよね。たとえば寝違えたと言ったらどうでしょうか?なんとなくそうかなと思われますでしょうか。最近、歯を治していないとしたら、また自覚がないのに咬み合せが問題と言うのは本当にそうなのでしょうか?
 では、咬み合せの治療をして、顎の症状だけでなく、全身的な症状や精神的な症状が改善されることがあると報告されているのはなぜでしょう?
 「治療効果」という言葉があります。何かの治療を行って良くなったということです。咬み合せの治療を行って顎関節症だけでなく全身的な症状はじめ精神的な問題まで良くなることもあります。これはかみ合わせの治療の効果だけなのでしょうか?「真の治療効果」という言葉を聞いたことがありますか? 治療効果は、真の治療効果+自然経過+平均への回帰+プラセボホーソン効果=治療効果と言われています。

たとえば風邪を引いても通常、時間が経てば何もしなくても治りますよね。人間の体は通常、ホメオスタシスといって恒常性を保つ機能により自然治癒力があります。医療の基本は、人のこの自然治癒力をいかに助けるかにあります。なんとなくわかりますでしょか?何もしなくてもなる可能性がある。特に顎関節症は、筋骨格系の運動障害ですので、症状が軽度であれば大抵は自然治癒することも多いと言われています。ですから咬み合せの治療をしてもしなくても次回来院までの間に治っていた可能性があります。
平均への回帰とは、症状の程度は偶然に左右されるので時間とともに自然に平均的な症状に近づくことです。プラセボと言う言葉は聞いたことがある人は多いでしょう。たとえば、うどん粉を薬だと言って飲んでも症状が治まってしまうことがあります。現在も薬の効果を調べる時に、細かい設定が必要ではありますが、本当の薬と偽の薬(うどんの粉の様に効果のないもの)を飲んでその差から薬の真の効果を調べるのですが、この偽の薬でも良くなる人が出てきます。この効果について以前は、気のせいの様に言われていましたが、最近では、脳の中での変化が見られることにより実際に効いているとの報告もあり、治療自体と言うよりも治療を行ったことに対する脳の反応が生じたかもしれないという事も考えられます。ホーソン効果とは、治療を受けたことで、患者さんが治るために様々なことに気をつけて努力する効果という事です。このように考えると、真の治療効果に対して、それ以外の要素も強いことがお分かり頂けたかと思います。実際、咬み合せが悪い人が顎関節症に必ずなるわけではないように、咬み合せの治療をして良くなる人も悪くなる人もいるのも事実です。通常日本では、咬み合せの治療をして悪くなった人は、ここは駄目だと思い、転院するケースが多いようです。そうするとどうでしょう、咬み合せの治療を行った先生は、良くなる患者さんもいることから、来なくなった人は良くなったから来なくなったと考える傾向にあるようです。あるいは、良くならないのは精神的な問題として片づけてしまうこともあります。
 どうでしょう。こう考えていくと咬み合せの治療を行う事のリスクが分かっていただけたでしょうか。ちなみに難治性の顎関節症や難治性の歯の痛みのほとんどは歯科治療から始まっています。自然経過やプラセボなどを意識しつつ後戻りができる治療で治る可能性もありますので、いきなり咬み合わせを治すことはあまりお勧めできません。
 それよりも他の要因、生活習慣などの悪習癖に気をつけることや運動療法などのセルフケアを積極的に行うことの方が少ないリスクで大きな効果があると思います。生活習慣の改善やセルフケアのやり方については後の章でお話しいたします。ただ、注意してほしいのは咬み合せが原因となることはあります。ただ大抵は治した歯が高かったり、低かったりした場合ですが、それでも症状は比較的早く表れます。また、逆に顎関節症の症状改善のために生活習慣に気をつけたり、運動療法を行ったりすると咬み合せが変わることがあります。長年の負担により歯がすり減ってしまった、あるいは歯を治しているうちに少しずつ顎の位置が変わってしまったことによる咬み合せの変化が顎に影響を与えている場合や、歯ぎしりやかみしめなどで顎の関節や筋肉の状態が変わりそれに伴い咬み合せの位置が変わってしまったことが考えられます。症状が良くなった後に、咬み合せが変わってしまい食べるのに不自由であるとしたら、咬み合わせを治す必要があると思います。ただあくまで順番は症状を取るための可逆的な治療(後戻りできる治療)を行うことが原則です。
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