2)咬み合せとは?
ここまで咬み合せと顎関節症の関係について述べてきました。
どうでしょう、難しかったですか?
咬み合せと顎関節症は関係ないのか?と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
咬み合わせと顎関節症は、関係あるときもあるし、関係ない時もある。しかもそれは患者さんによって異なるというのが正しいかもしれません。特に顎関節症はいろんな要素がからんでくるので、基本的な事、一般的な知識は必要ですが、治療を行うにあたり、標準性は大事ですが、個別性をよく診てそのバランスを考えなければいけません。わかりやすくいえば、難しい症例は、教科書的な考えだけでは上手くいかないという事です。これがわかっていないと本当は咬み合せが大きな原因であるのに、関係ないと見誤ることになります。これをわかるためには知識だけでなく多くの経験が必要です。
ここまで顎関節症を念頭に置いた話をしてきましたが、ここで咬み合せについて考えてみましょう。
咬み合わせとは、簡単にいえば上下の歯の接触の事です。上下の歯の接触が強い、弱い、接触が無い。あるいは接触がズレている。接触するときにズレる。などいろいろな状態があります。
もう少し、細かく考えてみましょう。歯は顎の骨に埋まっています。上の歯は上の顎の骨に、下の歯は下の顎の骨に埋まっています。上の顎の骨は頭の骨とつながっています。下の顎の骨は、顎の関節、すなわち顎関節と、顎の筋肉でつながっています。
ちなみに、上下の歯が咬み合っている、接触している時間は、1日どれくらいか知っていますか?
1960年ぐらいに世界的にいろんな国で調べたところ、1日20分程度だったんです。いつも患者さんにこの話をすると驚かれる方が多いです。先ほど上の顎と下の顎は顎関節と筋肉でつながっていると言う話をしましたが、筋肉には口を開けるのに働く筋肉と閉じるのに働く筋肉があります。なんとなくわかりましたか?上下の歯が接触している状態と言うのは、口を閉じる筋が働いていることになります。つまりずっと接触しているという事は、ずっと閉じる筋が働いていることになります。たとえば手を握ってみてください。軽く握っていても長い時間握っていると開ける時に手がこわばってくると思います。顎も同じです。顎が安静になるのは、開ける筋と閉じる筋のバランスが取れる所、すなわち上下の歯が2〜3mm離れているところと言われています。上下の歯が当たっている時間が長くなるほど顎の関節や筋肉に負担が掛かり顎関節症となる可能性が高くなります。
話を元に戻します。上下の歯の接触は、上下の歯がそれぞれ上の顎と下の顎に植わっているわけですから、上下の顎の位置、すなわち上の顎に対する下の顎の位置で決まってくるわけです。この時、下の顎が、関節と筋肉でつながっているとすると、関節と筋肉の状態で咬み合せは変わってくると言うことが想像できますでしょうか?
上下の歯の接触がかみ合わせであるとすると、それを決めているのは、顎の関節と筋肉という事になるわけです。
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すいません。長々と説明いたしましたが、何が言いたいかというと、顎の関節や筋肉の状態が分からなければ咬み合せの診断はできない。つまり顎関節症を知っていなければ咬み合せは治せないという事になります。
ですから、咬み合わせを治すためには、顎関節症が診断できる、治すことが出来ることが絶対の条件であると私は考えています。
特に、顎関節も筋肉も変化する組織です。咬み合せが変われば、形を変えて対応してしまう。それが許容範囲のなかであればいいのですが、許容範囲を超えると症状として出てしまう。ただ関節や筋肉が変化して対応しているため、一見すると咬み合せは悪くないので、咬み合せは問題ないと言われ治らない症例があるのも事実です。
顎関節症を治すためには咬み合せが分かっていなければならないと同時に咬み合わせを治すためには顎関節症が分かっていないといけないと言うわけです。
ご質問などありましたらこちらからからお願いします。
今年3月で定年退職された医科歯科大顎関節治療部部長の木野孔司先生が書かれた、顎関節症と咬み合わせの悩みを解決する本に、このあたりの話は詳しく書かれています。木野先生とは30年近く一緒に勉強させていただいたので、本には私のクリニックも紹介されていますので参考にしてください。
ただ木野先生は口腔外科出身であり、私は補綴(咬み合せを診る科)出身ですので、基本的な考えは一緒ですが、咬み合せについては若干違うかもしれません。
完全図解 顎関節症とかみ合わせの悩みが解決する本 東京医科歯科大学 顎関節治療部部長が書いた (健康ライブラリー)
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