顎関節症専門医のつぶやき(グリデン日記)

歯科医院(通称グリデン)からの顎関節症についての情報です。

「歯ぎしり」について

デンタルダイヤモンドという歯科雑誌の、昨年12月号の読者からの質問に答えるQ&Aコーナーの回答を雑誌社から頼まれて書きました。

今回は「歯ぎしり用マウスピースの試用期間」という質問ですが、歯ぎしりを改善する方法についても書きましたので、歯ぎしりでお悩みの方は参考にしてください。


内容につきましてご質問などありましたらこちらからお願いいたします。

歯ぎしり用マウスピースの使用期間
●質問内容:
夜間、歯ぎしりをしてしまう患者さんへマウスピースを作成したところ、患者さんに「いつまで使い続ければ治りますか」と聞かれました。マウスピースを使
用しなければならない期間や、使用をしなくてもよくなる指導法をお教えください。
北海道・Fデンタルクリニック

答え
 歯ぎしり(ブラキシズム)とは非機能的な咬合接触が生じている状態を指し、覚醒時と睡眠時の歯ぎしりに分類されます。また、歯ぎしりには、上下の歯をすり合わせるグライディング(いわゆる歯ぎしり)、一定の下顎位で噛み締めるクレンチング、上下の歯をカチカチ咬み合せるタッピングがあります。睡眠時の歯ぎしり(以下歯ぎしりと略す)は、2005年の国際睡眠関連疾患分類において睡眠関連運動異常症に分類されています。歯ぎしりの大半は、睡眠周期の中で、睡眠段階が深いノンレム睡眠からレム睡眠になる睡眠状態が不安定な期間に集中して発生するといわれています。また歯ぎしりの発現は、自律神経活動の変化、脳活動の亢進、心拍数の増大が起こり、その後閉口筋の活動を中心とした歯ぎしりが起こることから、中枢神経系の活動が主要な役割を担っていると考えられ、歯の接触は2次的に生じていると言われています。また為害作用として、歯ぎしりが生理的耐性を超えると、歯や修復物だけでなく、咀嚼筋、顎関節など顎口腔系に破壊的に作用します。
 現在考えられている歯ぎしりの原因は、多因子性であり、ストレス、性格、遺伝、薬物、飲酒、喫煙、特定の疾患の関与が報告されており、加齢とともに減少する事や、一過性あるいは一時的なものとも言われていますが詳しくはわかっていません。ですから、歯ぎしりの原因は人によって違うこともあり現時点では確実に歯ぎしりを治す治療法はありません。
そうした中で、顎口腔系の保護のためにナイトガードが一般的に用いられています。ナイトガードの効果について、装着した直後は咀嚼筋の筋活動は減少すると言われています。ただその効果は一時的であり、2,3週間後には、ナイトガードをしていても、また歯ぎしりはもとに戻ってしまうようです。ですからナイトガードを使うことで歯ぎしりは治るわけではないので、顎口腔系の保護を考えた場合には、使い続けることになり、その場合には、装着していることの為害作用が無いように夜間のみ装着することや、適切に調整されたナイトガードを定期的に、その効果をモニターしながら評価していくことが必要です。
歯ぎしりはナイトガード使用で治らないとすると、使用しないで良くなる可能性のある方法があればその方法が重要になってきます。まず1つ目は、覚醒時の歯ぎしりを減少させる事です。覚醒時の歯ぎしりについては睡眠時と違い、多くは悪習癖として捉えられています。覚醒時の歯ぎしりを自覚し、悪習癖を改善することで覚醒時の歯ぎしりが減少すると睡眠時の歯ぎしりも減少するとの報告があります。次にリラキゼイションと自己暗示法です。この方法について具体的に説明いたします。まず布団に入り枕を低くし、後頭の一番出っ張ったところより首の付け根近くに枕が来るようにします。すると頭が少し上を向くので口が開きやすくなります。次にリラックスをする方法ですが、力を抜くと言うのは通常でも難しいことです。力を抜くためには、最初に力を入れることがポイントです。まず1,2秒強く噛みしめて、顎の力を抜いて歯を離して下さい。この時に呼吸も合わせて、力を入れる前に大きく吸って、力を入れる時に息を止め、脱力した時に大きく吐いてください。次に肩に思いきり力を入れて1,2秒したら力を抜いて下さい。ここでも呼吸を合わせてください。同様に胸、腹、太もも、そして最後に足の先に力を入れ、ストレスがすべてそこから出ていくようなイメージで大きく息を吐きだしながら脱力します。次に自己暗示ですが、例えば、次の朝大事な用事があって4時に起きなければいけない時に、目覚ましが鳴る前に時間通りに目が覚めることがあると思います。同じように、リラックスして眠ると言う作業はその気になれば以外にできると言われています。先ほどの作業で力を抜いた後に、呼吸に意識を傾け、吐くときに脱力するのを繰り返しながら、手足やお腹が温かくなってくるのを感じてください。また吐くときにリラックスすること、歯を噛みしめないこと等を自分に言い聞かせます。そして、次の朝、すっきりさわやかに間が覚める自分の姿をイメージしながら眠りに入ってください。これが自己暗示療法です。その他にも、ストレスマネージメントや、寝る前に飲酒、喫煙、あるいは読書をしないなどに気をつけることも必要です。
歯ぎしりは原因がわかっていないことから、いろんな方法を試してもらいながら顎口腔系の保護に、夜間のみナイトガードを使用し、定期的に状態を確認し、歯ぎしりが減少しているようであれば、少しずつ外すようにしてみると良いのではないかと思います。
 
文献
1)馬場一美,船登雅彦:ブラキシズム,日本顎関節学会編 新編顎関節症、永末書店、京都、43-46,2013.
2)谷口威夫:身近な臨床 ブラキシズム(その1)、日本歯科医師会雑誌、53(3),221-227,2000.

医療法人社団グリーンデンタルクリニック
島田淳